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手仕事だからできること Vol.1 手仕事だからできること Vol.1
株式会社東北紙業社 小野幸弘さん
お話をうかがった方
株式会社東北紙業社
小野幸弘さん
東京墨田区で80年続く抜き加工会社、株式会社東北紙業社社長。高い技術と豊富な経験を駆使してさまざまな難題に取り組む。
プロセス
01
抜きの精度を高めるため、量産機ではなく、一枚ずつ手差しで抜く昔ながらの機械を使用します。
02
紙はとてもデリケート。温度や湿度によって状態が変化する。均一に見える表面も部分によって微妙な厚みの違いがあり、刃を調整しないとしっかり抜けていない部分にムラ(紙のケバ立ち)が出てしまいます。
03
手作業で刃の高さを調整していきます。1ミリ以下の細かな作業は長年蓄積された経験あってこそなせる技。
04
細部までしっかり目で見て仕上がりを確認。刃を高くしすぎてしまうと断面のシャープさが失われてしまうので、丁度いいバランスを何回も調整しながら探っていく。
05
100トン以上の圧がかかる抜き機。時には台の細かいキズが精度に影響することも。ヤスリで削りながら調整していく。デリケートな紙と対話しながら、なかなか根気のいる作業です。
06
やっと満足のいく仕上がりに!このカードのデザインは、二つ折りにしたときに抜かれた部分のフォルムがぴったり重なるところがポイントなので、左右の微妙なズレを調整していくのが大変でした。
技術は職人それぞれ、門外不出。でもお互いの良さを認めあって連携する。

macmicron 墨田区でどのくらい加工業を続けられてこられたんですか?

小野さん 昭和7年創業、もうすぐ80周年になります。このへんは紙の抜き屋、製本屋、断裁屋、内職屋などの中小企業が固まっていました。印刷会社など大手からの仕事を皆で連携して仲間内で受けていましたね。

macmicron 同業どうし、ノウハウも共有しあっていた?

小野さん 昔から職人っていうのは人の仕事を見て覚えろと。だからこのやり方がベストというのは存在しないしマニュアルもない。一軒一軒、職人ごとにやり方が違う。それぞれ一番きれいに仕上がる方法を研究して、他にバレないようにしていた。ただやはりそれぞれに得意不得意も出てくる。同じ機械を使っていても職人によって抜けるものと抜けないものとが出てくるんです。

macmicron 紙によって変わるということですか?

小野さん 大きくは薄紙専門や厚紙専門に分かれてくる。紙はデリケートなので、種類や厚さによって扱い方が全然違ってくる。それぞれの得意分野がお互い分かっているから、注文を受けたときにいちばんきれいに仕上がる職人に仕事を回す、そうやって連携し合って、地域全体でやっていました。

インダビュー01
デリケートな作業にはさまざまな道具を駆使する。何をどう使うかは職人によって違う。

豊富な経験があるからこそ、応用すれば何にでも対応できる。

小野さん 大抵の職人は経験したことのないものはやりたがらないけれども、うちはこれまでの経験を応用すれば何でも抜けると思ってやっています。最近は屏風の四隅の留め具など、これまで抜いたことのないような品物の注文も。これまで薄紙から厚紙、発砲スチロールなどの異素材まで、色々と加工してきた経験があるから、それらを応用すれば大抵できないことはない。薄い鉄板でも紙で挟んであげれば抜ける。だから海外からの品物など、加工の前例がないようなものはまずうちに相談がきます。「東北さんなら抜ける」と。それでやり方をうちで試してみて、その後は安く抜けるところへ仕事を回す。

macmicron 加工のよろず相談所みたいなかんじですね。

小野さん 昔からそういうやり方でやってきました。メンコなどの厚いものや、表面にロウが塗ってある紙のおもちゃなど、本当いろいろなものを抜いてきましたね。だからひと目見ただけで抜ける抜けないが分かるし、どの機械でやったら上手く仕上がるかという判断ができる。最近はウレタンなんかも抜いていますね。台所用スポンジのような単純な形はこれまで抜いてきたけれども、最近はデザイン性の高い複雑な形の注文も。素材としては経験があるので、それをどうキレイな形に仕上げていくかは紙で培ってきた技術を応用して解決していくのがうちのやり方。大抵の職人はやったことない注文は受けないのが普通だけど。

macmicron やっぱり普通は機械を壊すとか、リスクを先に考えちゃいますよね。

小野さん いろいろとチャレンジしてきたので、その分蓄積がある。だからやれると言えるんです。

macmicron デザイナーとして可能性の広がるお話です。

小野さん 展示会などでどう製品化したらいいか悩んでいるデザイナーさんに対して、逆にこちらから抜きでできますよと提案していくこともあります。面白いアイディアはあっても高くつくだろうなとか、キレイにいかないんじゃないかと悩む前に相談にきてほしいですね。アイディアを実現する、そこに行き着くまで試行錯誤はあるけれどもやりがいがありますね。

macmicron 改めて抜きで加工するメリットは何でしょう?

小野さん 大量生産するものなら何百万の金型を作ってやることも可能だけれど、小規模なものはコスト的になかなかハードルが高い。紙は20mmまで対応できるし5mmまでならベニヤも抜ける。いちど抜き型を作ってしまえばある程度の量産もできる。だからまず抜きを試してみることをおすすめしています。

インタビュー02
どんな素材でも形でも、今までの経験を応用すれば大抵の加工ができる。カードの抜き型を使ってウレタンを抜いていただきました。

紙は生き物。だから丁寧な作業が不可欠。

macmicron 主に紙を加工されているかと思いますが、扱いで気をつかうことは?

小野さん 紙は生きているんで、温度や湿度によって厚くなったり薄くなったりします。それと紙の表面は一見フラットに見えるけれども、職人の目から見ると部分によって微妙に厚さが違う。抜いてみるとムラ(抜けていない部分)が出るのですぐ分かる。刃をいじることで1ミリ以下の単位で微調整していく、それが一番根気のいる作業ですね。

macmicron そのレベルになってくると人の目で見て手で確認しての作業ですね。

小野さん 機械の圧を上げて抜けばムラは気にしないで済みますが、それだと刃が持たない。すぐダメになる。結局型を作り直すからコストがかかる。コストを抑えつつ、きれいなものに仕上げるには職人の手と目を駆使して細部を詰めて行く作業が不可欠です。

macmicron 紙の種類で扱いにくいものはありますか?

小野さん 薄いものはけっこう難しいですね。意外とムラが出やすい。ツルツルしていたり、ボコボコしていたり、表面加工があったり、抜く形によっても違うし、その時々で課題があり、その都度解決してくといったかんじです。

インタビュー03
左右の形をかみ合せてぴったり留るようにするのに、微妙な調整を繰り返しました。

技術を残していくために、新しいやり方をどう取り込んでいくかが課題。

macmicron 今後取り組んでいきたいことはありますか?

小野さん 今、紙に紙を埋め込む紙象嵌という加工の技術を、新しいやり方を取り入れて研究しているところです。紙象嵌は昔からある加工技術ですが、彫刻型を作れる腕のある職人が減ってきているんです。それに代わるものとして機械彫りが進化している。同じ刃でも人の手によるものと機械によるものでは様子が違う。新しいタイプの型に合わせて、どう工夫してやっていくかというのが今後の課題です。

macmicron 受け継がれてきた技術を時代の変化に合わせてつないでいくということですね。今、安く大量生産するものと、丁寧に作られた希少性の高いものと、ニーズが二極化していると感じます。

小野さん こんなこともできるんだよ、と外に向けて発信していくことで、それに触発されて新しい製品が生まれる。その都度課題があって大変ですけれど、大量生産ではできない、どんな面白いものが作られていくか楽しみですね。

インタビュー04
紙に紙を埋め込む「紙象嵌」。質感の組み合わせによって工芸品のような風情に。
(c)AOYAMAMIHONCHO
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